選んではいけない悪質老人ホームの例
ある地方都市に「食費込み月7万円台」という超格安な住宅型有料老人ホームがあると聞いて、どんな内容なのか見学に出かけたことがあります。
格安だけど悪質な有料老人ホームの実例
さぞかし古い建物かと思いきや、意外にも新築2階建てのマンション風です。
ちょうど昼時でこれから食事が始まるところでした。食堂には、同色のジャージを着た入居者5?6人が三々五々集まってきました。
「は?い、みなさん、大きく口を開きましょう」
職員のかけ声に合わせ、入居者さんたちはロを動かす体操を始めました。誤嚥を防ぐための体操だといいます。
「日中は車で5分ほどの場所にあるデイサービスを利用するので、ホームに残っている人はわずかです。ヘルパーが夜間もいますし、介護べッドや車椅子も借りられますよ」
その老人ホームの経営者からの説明によれば、月額料金は食費込みで個室は8万5000万円、相部屋でよければ7万2000円だけで済むといいます。一時金は、1力月分の月額料金のみです。ただ、相部屋といっても8畳間くらいのスぺースにベッドが2つ置いてあるだけ。仕切りもありません。
「本当にこんなに安くてやっていけるんですか?」と、尋ねたところ、経営者は、「よそは介護費として1割をとるけど、うちはコミコミでやっていますから。その代わりデイサービスや訪問介護、福祉用具は、うちが指定するところを使ってもらいます」と答えました。
囲い込み老人ホームでした。恐らく限度額ビジネスなのでしょう。「コミコミ」とは、老人ホームの入居費と介護報酬をセットにして収入を見込んでいるという意味です。人居者の要介護度にかかわらず、月額料金は一律なのだといいます。
ちなみに介護サービスの利用者から自己負担(1割)を徴収しないのは法令違反にあたります。取り消し処分の理由にもなります。
調べると、同社は過去にもデイサービスで不正が発覚し、取り消し処分された経緯があった。だが、この経営者には法令を順守しようという考えは感じられませんでした。
運営に問題
運営面にもさまざまな問題を抱えているようです。
安い時給でパートの職員を雇い、まともに研修もしない。そのくせミスをすると怒鳴りつけるので、職員は萎縮しています。時給が下げられることもあるようです。衛生管理もできていないので、乾癬(ヒゼンダニによる皮膚病)が入居者に拡大したこともあります。
中には胃ろう(経管栄養)で寝たきりの高齢者もいますが、チューブを引き抜かないようミトンの手袋だけでなく、手を紐でベッドに縛り付けるなどの拘束も日常的にやっているといいます。
入居者は生活保護受給者だけでなく、収入のわずかしかない低所得者者も多く、面会に来る家族すらいない人もいます。埋葬も引き受けているらしいのですが、骨壺もぞんざいに置かれたままになっていることもあると言います。
経営者によれば、同老人ホームには定期的に訪問診療にやってくる医師(在宅医)はいるというます。ですが、入居者が亡くなった際に死亡診断書を書くのがおもな役割で、体調急変時には一律に救急車で病院に搬送しています。医療費はとるのに、いざという時は病院任せのご都合主義のようです。結局のところ、安かろう悪かろうの典型的なホームと言えるでしょう。
悪質な料金システム
もちろん低料金でも、質のいいサービスを提供しようと努力している有料老人ホームもあります。
一方で、基本料の他に様々な別料金が次々請求される老人ホームもあるのが実情です。
例えば、キャンペーンで月額料金を5万円値引きすると謳った有料老人ホームは、よくよく聞いてみると部屋代のほかに光熱費などの基本料が月5000円程度かかるうえ、実費も追加される。寝間着は1日750円と病院よりはるかに高い。オムツ代は実費と書いてあったので、いくらかかるのか聞いたところ、平均で月4万円、多い人で月5万?6万円でした。何枚使ったかはホーム側が数えるので、請求されたらその通りに払うしかありません。別にかかる費用がいろいろ出てきて恐ろしくなります。
他のホームでも、「個室への配膳は〇〇円」「服薬介助は〇〇円」と保険外の費用を別途とる有料老人ホームもあります。くれぐれも表向きの費用の安さにつられないよう、充分注意しましょう。